私は外車に乗っている。各地にディーラーが配置されている安心感が、私がその車を選んだ理由だった。遠隔地の仕事には主にその車を使用していた。

 京都でのことだった。たたんだサイドミラーが突然開かなくなった。

 私が車を購入した大阪のディーラーに電話すると整備士が「保険会社のサービスを利用して京都のディーラーに運んでもらってください」というので、「京都市内にいるのだから、京都のディーラーに来てもらえないか聞いてくれる?」と頼むと「はい聞いてみます」と答えた。

 数分後、大阪のディーラーの今度は営業から電話が入り、「聞いてみましたがあいにく人手がなく迎えにはいけないとのことでした。JAFでしたら2万円以内で移動できますが」と言った。

 「目と鼻の先の移動で、ミラーが開かないだけなのだから自分で運転します」と答えた。

 不自由な運転で京都のディーラーに着くと、8人ばかりの整備士と営業がぞろぞろと私を迎えに出てきた。ドアを開け、私に「お待ちしてました」と明るく挨拶した。

 瞬間、私は怒りを爆発させた。

 「これだけ人数がいて、迎えに来られないってどういうこと」

 あまりの怒声からか、名刺を出そうとした姿勢のまま奥のフロアに消えていく営業もいた。

 誰も即答しないことに私は苛立ちを募らせ、「迎えに来なかった理由を教えてください」と声を荒げ続けた。すると、「僕たち迎えのことは聞いていません」という返事がきた。

「人手不足を理由に断ったんじゃないの?」
「いいえ。そんなこと言ってませんし聞いてません」

 私は大阪のディーラーを呼び出した。整備士はまだ若い青年だった。私を担当している営業はベテランの男性だ。

 私はまず青年のほうに聞いた。

 「なぜ嘘をついたの」
 「・・・・・同じディーラーでも、実質は別の企業で無理が言えないから」と青年は言った。

 「初めから頼めないと分かってたわけね。じゃなんで“聞いてみます”と言ったの」
 「・・・・・」

 営業にも聞いた。

 「なんでベテランの営業まで、“聞きましたけど”なんてすぐバレる嘘をつくの」

 「・・・・・」

 皆、腰が低く、怒る客にはすぐ駆けつけ菓子折りも準備するという“営業姿勢”はできている。だが、たった一言の嘘が信用を失墜させることには無自覚だ。

 彼らの意識では“嘘”ではなく“対応力”だったり“機転”だったりするのだろう。だから臆面もなく整備士から営業まで、新人から中堅まで、それを踏襲してきたのかもしれない。

 しかし、彼らが2人して返事できなかった「・・・・・」の中身にその答えはある。「・・・・・」とはつまり「客なんかその程度でなんとでもなるから」だ。

 あくまで客を騙す“対応力”であり、騙すための“機転”である。だから彼らはその理由を口に出来なかった。私は迎えに来てもらえなかったことを怒っているのではない。聞いてダメだったらそれでいいのだ。それなら本当に数人が「すみません、迎えに行けず」と恐縮しつつドアを開けただろう。

 「お待ちしてました」と明るく大勢で出迎えられた途端、嘘がバレる。

 客を真剣に騙すつもりなら、京都のディーラーにも「こういう理由を客に言っているからよろしく」くらいの手配はすべきだ。嘘がバレないためには想像力と細かい配慮と記憶力が必要とされる。些細な嘘でも、つくときには真剣で大掛かりな仕掛けが必要なのだ。そんなことに知恵も工夫も努力も惜しむなら、正直が一番だ。

 そんな手間すらかけず、口先で客を騙せると思った大阪のディーラーに「客をなめているのですか」と私は怒った。

 懸命に整備の仕事を覚え、日々実直に修理をこなしていることが想像できる、健やかな目をした青年が、その仕事と同時に客を侮ることを覚える。

 長年営業経験を積み、“信頼”のかけがえのなさと日々向き合うはずの営業が、同時に客を騙す口先の技術を部下に伝授する。

 組織というのは、こういう侮りの連鎖でもって腐っていくのではないか。腐るのはブランドだけじゃない。プロとしての成長期の青年までもが無自覚に、人を侮ることを覚えていく。腐るのはまず人の心からだ。

 私は、姑息な中年営業マンがどうであれどうだっていい。機械と向き合うことを選んだおそらくは社交下手な青年が、その大切な世代で覚えたのが“客の騙し方”だという酷さに目を覆った。

 営業の腰の低さと媚でもって満足する客もいるだろう。だが、人として信頼できるか、そこを見る客もいる。たかが商品を買うくらいでそんな、と、思われるかもしれないが、人材と商品は直結している。

 その仕事を選んだ理由、信念、こだわり、誇り、それらの意識が、ひとつの仕事のやり方に表われ、ひとことの会話の仕方に露呈する。そこをスッポリはずした人間に、どれほど頭の下げ方を覚えさせようが、たったひとことで企業ブランドごと地に落ちる。

 私は翌日、その車を中古車屋に売った。

 組織に蔓延した侮りは、青年の未来を卑しめ、客を傷つけ、捨てたくなる商品へとそれを変貌させる。

 自分の仕事を大事にできない人間に、客を大事にできるはずもない。真の営業力とは、媚びではなく、誇りのはずだ。

 景気が悪くて外車が売れない?
その企業についてだけ言わせてもらえば、私には、ちゃんちゃらおかしい。

企業はどこから腐るのか:NBonline(日経ビジネス オンライン) (via tiga) (via kml) (via otsune)

多少極端な話ではあるが気持はわかるし、気をつけないとならないなと襟を正す思い。

(via yamato) 2008-10-11 (via gkojay) (via oosawatechnica) (via tessar) (via shortcutss) (via nemoi)

(via rktm)

私は外車に乗っている。各地にディーラーが配置されている安心感が、私がその車を選んだ理由だった。遠隔地の仕事には主にその車を使用していた。

 京都でのことだった。たたんだサイドミラーが突然開かなくなった。

 私が車を購入した大阪のディーラーに電話すると整備士が「保険会社のサービスを利用して京都のディーラーに運んでもらってください」というので、「京都市内にいるのだから、京都のディーラーに来てもらえないか聞いてくれる?」と頼むと「はい聞いてみます」と答えた。

 数分後、大阪のディーラーの今度は営業から電話が入り、「聞いてみましたがあいにく人手がなく迎えにはいけないとのことでした。JAFでしたら2万円以内で移動できますが」と言った。

 「目と鼻の先の移動で、ミラーが開かないだけなのだから自分で運転します」と答えた。

 不自由な運転で京都のディーラーに着くと、8人ばかりの整備士と営業がぞろぞろと私を迎えに出てきた。ドアを開け、私に「お待ちしてました」と明るく挨拶した。

 瞬間、私は怒りを爆発させた。

 「これだけ人数がいて、迎えに来られないってどういうこと」

 あまりの怒声からか、名刺を出そうとした姿勢のまま奥のフロアに消えていく営業もいた。

 誰も即答しないことに私は苛立ちを募らせ、「迎えに来なかった理由を教えてください」と声を荒げ続けた。すると、「僕たち迎えのことは聞いていません」という返事がきた。

「人手不足を理由に断ったんじゃないの?」
「いいえ。そんなこと言ってませんし聞いてません」

 私は大阪のディーラーを呼び出した。整備士はまだ若い青年だった。私を担当している営業はベテランの男性だ。

 私はまず青年のほうに聞いた。

 「なぜ嘘をついたの」
 「・・・・・同じディーラーでも、実質は別の企業で無理が言えないから」と青年は言った。

 「初めから頼めないと分かってたわけね。じゃなんで“聞いてみます”と言ったの」
 「・・・・・」

 営業にも聞いた。

 「なんでベテランの営業まで、“聞きましたけど”なんてすぐバレる嘘をつくの」

 「・・・・・」

 皆、腰が低く、怒る客にはすぐ駆けつけ菓子折りも準備するという“営業姿勢”はできている。だが、たった一言の嘘が信用を失墜させることには無自覚だ。

 彼らの意識では“嘘”ではなく“対応力”だったり“機転”だったりするのだろう。だから臆面もなく整備士から営業まで、新人から中堅まで、それを踏襲してきたのかもしれない。

 しかし、彼らが2人して返事できなかった「・・・・・」の中身にその答えはある。「・・・・・」とはつまり「客なんかその程度でなんとでもなるから」だ。

 あくまで客を騙す“対応力”であり、騙すための“機転”である。だから彼らはその理由を口に出来なかった。私は迎えに来てもらえなかったことを怒っているのではない。聞いてダメだったらそれでいいのだ。それなら本当に数人が「すみません、迎えに行けず」と恐縮しつつドアを開けただろう。

 「お待ちしてました」と明るく大勢で出迎えられた途端、嘘がバレる。

 客を真剣に騙すつもりなら、京都のディーラーにも「こういう理由を客に言っているからよろしく」くらいの手配はすべきだ。嘘がバレないためには想像力と細かい配慮と記憶力が必要とされる。些細な嘘でも、つくときには真剣で大掛かりな仕掛けが必要なのだ。そんなことに知恵も工夫も努力も惜しむなら、正直が一番だ。

 そんな手間すらかけず、口先で客を騙せると思った大阪のディーラーに「客をなめているのですか」と私は怒った。

 懸命に整備の仕事を覚え、日々実直に修理をこなしていることが想像できる、健やかな目をした青年が、その仕事と同時に客を侮ることを覚える。

 長年営業経験を積み、“信頼”のかけがえのなさと日々向き合うはずの営業が、同時に客を騙す口先の技術を部下に伝授する。

 組織というのは、こういう侮りの連鎖でもって腐っていくのではないか。腐るのはブランドだけじゃない。プロとしての成長期の青年までもが無自覚に、人を侮ることを覚えていく。腐るのはまず人の心からだ。

 私は、姑息な中年営業マンがどうであれどうだっていい。機械と向き合うことを選んだおそらくは社交下手な青年が、その大切な世代で覚えたのが“客の騙し方”だという酷さに目を覆った。

 営業の腰の低さと媚でもって満足する客もいるだろう。だが、人として信頼できるか、そこを見る客もいる。たかが商品を買うくらいでそんな、と、思われるかもしれないが、人材と商品は直結している。

 その仕事を選んだ理由、信念、こだわり、誇り、それらの意識が、ひとつの仕事のやり方に表われ、ひとことの会話の仕方に露呈する。そこをスッポリはずした人間に、どれほど頭の下げ方を覚えさせようが、たったひとことで企業ブランドごと地に落ちる。

 私は翌日、その車を中古車屋に売った。

 組織に蔓延した侮りは、青年の未来を卑しめ、客を傷つけ、捨てたくなる商品へとそれを変貌させる。

 自分の仕事を大事にできない人間に、客を大事にできるはずもない。真の営業力とは、媚びではなく、誇りのはずだ。

 景気が悪くて外車が売れない?
その企業についてだけ言わせてもらえば、私には、ちゃんちゃらおかしい。

企業はどこから腐るのか:NBonline(日経ビジネス オンライン) (via tiga) (via kml) (via otsune)

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